「外国人スタッフはまずコミュニケーション能力が問題だから、認知症の方のユニットには配置できない」——これは、外国人介護士を受け入れた施設の担当者から、最初の配置を検討するときによく出てくる言葉です。確かに直感的にはそう見える。しかし、現場で実際に起きていることは、この「直感」とはしばしば真逆です。

【認知症ケアにおける「言語」の位置づけを問い直す】

認知症ケアの研究において、「コミュニケーション」は言語情報・非言語情報・準言語情報の3要素で構成されると整理されています。言語情報とは言葉の意味そのもの。非言語情報とは表情・視線・姿勢・距離感・触れ方。準言語情報とは声のトーン・話すスピード・間の取り方です。

重要なのは、認知症が進行した状態では「言語情報の処理能力が低下する一方、非言語・準言語への感受性は比較的長く保たれる」という臨床的事実です。つまり「何を言っているか」よりも「どんな表情で・どんな声で・どんな手で触れているか」が利用者の安心感に直結します。

この視点から考えると、日本語がまだ発展途上の外国人介護士でも、非言語コミュニケーションの質が高ければ認知症ケアにおいて十分な——場合によっては卓越した——関係性を構築できることが理解できます。

【現場で起きた3つの「予想外」の場面】

場面①:歌が繋いだ関係 ある特養で働くベトナム人スタッフ・Tさんは、日本語のワーキングメモリを使わずに済む「歌」を積極的にケアに取り入れました。日本の古い歌謡曲を丁寧に練習し、認知症の高齢者と一緒にハミングする時間を作ったのです。言葉の意味はわからなくても、歌のメロディーと笑顔がある空間を作ることができる。その利用者は「Tさんが来ると顔が緩む」と家族から言われるようになりました。

場面②:「話す」より「聞く」に長けた外国人スタッフ 日本語での即興的な会話が難しいために、外国人スタッフは自然と「うなずきながら相手の話を最後まで聞く」というスタイルになることがあります。認知症の方は「自分の話を遮られない」「最後まで聞いてもらえる」という体験に安心感を覚えます。日本人スタッフが忙しさのあまり無意識に行っている「話の途中での言い換え・先読み発言」が、実は利用者の混乱を招いていたことに気づかせてくれるケースもあります。

場面③:文化的背景が生む「敬老の姿勢」 ベトナムをはじめ多くのアジア文化では、年長者を敬う価値観が日常行動に深く組み込まれています。「おじいちゃん・おばあちゃんの世話をすることは当たり前のこと」という感覚で介護に向き合う外国人スタッフは、日本人利用者の側から見ても「大切にされている」という感覚を醸成します。介護を「作業」ではなく「関係性」として捉えている外国人スタッフが、認知症ケアで際立った結果を出すのはこのためだとMediflowは考えています。

【では「言語の壁」は問題にならないのか:正直な評価】

誤解を防ぐために正直に言います。言語能力は重要であり、「全く問題ない」とは言い切れません。特に以下の場面では言語力が必要です。

急変・緊急時の報告:「利用者が転倒した」「呼吸が変だ」など、緊急を要する状況の正確な報告は言語能力に依存します。これは入職前から緊急時の報告フォーマットを練習することで対処できます。

服薬・医療行為の説明:「この薬を今飲みますね」「少し痛いですが我慢してください」などの場面は、日本語の精度が求められます。

個別の生活歴に基づくコミュニケーション:「昔は教師だったんですよね」「お好きな食べ物は何でしたか」という深い個別性への対応は、日本語の豊かさが活きます。

つまり、外国人スタッフは「非言語コミュニケーションが重要なシーン」では卓越した力を発揮できる一方、「精密な言語が必要なシーン」ではまだ成長途上という正確な認識が必要です。配置の工夫と日本人スタッフとの役割分担が、この課題への現実的な答えです。

【「うちでは認知症の方が多いから外国人は難しい」への回答】

この固定観念が最も多い反論のひとつです。しかし、現場の事実を積み重ねると「認知症ケアだからこそ、外国人スタッフが輝く場面がある」という結論が見えてきます。

Mediflowが支援した施設の中で、認知症専門ユニットに外国人スタッフを積極的に配置した施設があります。その施設のユニットリーダーはこう言いました。「最初は不安でしたが、利用者の表情が明らかに柔らかくなった。温かい手と笑顔が、言葉の何倍もの力を持っていることを教えてもらいました」。

ケアの本質は「相手の内側に何を届けるか」にあります。言語はそのための手段のひとつに過ぎない——現場の外国人介護士たちが、毎日その事実を証明しています。

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