「外国人スタッフが来ると聞いたとき、正直、不安でした」——これは、ある神奈川県の介護施設で10年以上働くベテランスタッフ・Aさん(52歳)の言葉です。Aさんは決して排他的な人ではありません。ただ「言葉が通じないと利用者に何かあったとき困る」「こちらが気を使い続けることになるのでは」という、ごく自然な心配を持っていました。この記事では、外国人採用において施設が向き合うべき「日本人スタッフの本音」と、一緒に働いて変わっていくプロセスを追います。
【「不安」の中身を分解する:3つの典型的な懸念】
Mediflowが施設側の担当者から伺う「日本人スタッフの不安」を整理すると、大きく3つに分類されます。
懸念①:コミュニケーション上のリスク 「緊急時に言葉が通じなかったら?」「業務指示が伝わらないまま動かれたら?」——これは安全管理に直結する懸念であり、最も真剣に対処すべきものです。対策としては、業務ごとのチェックリスト・手順書の「やさしい日本語」版整備と、緊急時の報告フォーマットを事前に一緒に練習しておくことが有効です。
懸念②:「余計な仕事が増える」という疲弊感 人手不足で忙しい現場に、さらに「新人の外国人スタッフを教える」役割が加わることへの抵抗感です。これが解消されないまま外国人スタッフを入れると、教育担当になった日本人スタッフの負担が増え、場合によってはその人が先に辞めてしまうというケースが起きます。「外国人スタッフが自走できるまでの期間は、担当者の業務を一部軽減する」という施設側のコミットが重要です。
懸念③:「自分たちの文化・やり方が変わってしまうのでは」という変化への恐れ 長年積み上げてきた現場の文化が崩れることへの漠然とした不安。これは個人の排他性の問題ではなく、人間が持つ自然な「恒常性維持の本能」です。「変えなくていいことは変えない」という明確なメッセージを施設管理者が発信することで、多くの場合は緩和されます。
【入職後3ヶ月:Aさんに何が起きたか】
ベトナム出身のNさん(24歳)がAさんのユニットに入職したのは、ある年の秋のことでした。最初の1ヶ月、AさんはNさんの業務を注意深く見守りながら、丁寧に手順を教えました。「教える」というより「一緒に確認する」というスタンスを意識したそうです。
ある日、Aさんが担当している認知症の男性利用者が夕方になると興奮しやすくなる(夕暮れ症候群)ことを、Nさんは業務メモに書いて自分なりに対策を考えてきました。「毎夕、好きな歌を一緒にハミングすると落ち着く、というのをやってみました」——Nさんの提案をAさんが試したところ、効果があったのです。
「自分が10年かけて覚えてきたことを、Nさんは別の角度から見ていた。私の方が学ぶことがあった」——Aさんはそう話します。
【日本人スタッフが「変わった」と感じた3つの瞬間】
複数の施設の日本人スタッフへのヒアリングを通じて、「外国人同僚との関係が変わった」と感じた瞬間に共通するパターンが見えてきました。
瞬間①:「ありがとう」の重さが違うと気づいたとき 外国人スタッフが「教えてもらったこと」への感謝を表現するとき、言葉の重みが違うと感じる日本人スタッフが多い。「家族に話した」「国の親に伝えた」という話を聞いたとき、「自分がしていることは誰かの人生に本当に影響しているんだ」と実感するそうです。
瞬間②:利用者との関係に新しい景色が見えたとき 日本語が堪能ではないはずの外国人スタッフが、認知症の利用者と深く心が通じ合っている場面を目撃したとき。「言葉じゃないんだ、介護って」という気づきが、ベテランスタッフの仕事観を揺さぶることがあります。
瞬間③:休憩室が少し「楽しく」なったとき 「外国人スタッフが来てから、休憩室で会話が増えた」という声は複数の施設から聞かれます。「どんな食べ物が好きですか?」「ベトナムのお正月はどんな感じ?」という他愛ない会話が、日本人スタッフ同士の関係性にも良い化学変化をもたらすことがあります。
【施設が「受け入れ前」にすべき3つのアクション】
アクション①:日本人スタッフへの丁寧な事前説明 「なぜ外国人採用をするのか」「どんな準備をしているのか」「皆さんに何を求めているのか」を、外国人スタッフが入職する2〜4週間前に共有する場を設けます。「知らないうちに決まっていた」という不満が、入職前から日本人スタッフの心を閉じさせます。
アクション②:「教え上手な人」をバディに任命し、業務を見直す 誰でも教育担当になれるわけではありません。コミュニケーションが得意で、受容性が高いスタッフをバディに選び、その人の担当業務を一時的に軽減します。バディへの適切な配慮が、現場全体のモチベーションを守ります。
アクション③:外国人スタッフの「強み」を事前に共有する 「Nさんはベトナムで2年間介護施設で働いていました。夜間ケアの経験が豊富です」——このような情報を事前に共有されると、日本人スタッフの「教えなければならない」という意識から「一緒に学べる人が来る」という意識への転換が起きやすくなります。
AさんはNさんが入職して1年後、施設長にこう言ったそうです。「Nさんに来てもらってよかったです。私も変われた気がします」。受け入れの成功は、外国人スタッフの成長だけでなく、日本人スタッフの成長でもある——これがMediflowが最も大切にしている現場の真実です。